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写真作品集に関するレビューブログです。
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津田 直「近づく Coming Closer」(増補版)
出版社:株式会社 赤々舎
出版年:2009年
価格:1,500円
文庫本サイズの写真集で、前半30頁ほどはカラー写真ですが、以降約200頁までは白黒写真という構成。
その白黒写真も、カラーフィルムで撮影したものを白黒調でプリントしたものということ。
増補版ということで2009年に再発表され、未発表作品と作家自身による言葉を新たに掲載したものになっています。(元々は2001年発表の津田の処女作です。)
加えて、頁におけるプリントサイズもバラバラで調度フィルムでいうハーフサイズくらいのものから中判、大判サイズくらいのものまで多様にあります。
その殆どは日本国内で撮影されたという風景写真。
文庫本サイズで価格も求めやすいからか、多くの書店で取り扱っているのを確認できる。
ただ、一見シンプルな作品でありながらも、作者の創作過程における探求の様がよく現れていて、飽きることなく見ることのできる作品だと思う。何度見ても、新たな風景が見えてくる。
導入部でのカラー写真が後半には白黒の写真で、淡いプリントで(カラーからのプリントだからだろうか)再度白日に晒される。
後半の白黒写真はカラーの残像を残しながらも、まるで別の景色をみているような印象を再構築していく。
色のついた風景が与えた印象は、白黒になったときにはまた違った印象を付帯してやってくる。
津田の提示する思索の小波から、小波を立てる風の存在を知らされる。
170頁目から20頁ほどは津田の言葉が並ぶ。
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「近づく」=ときどき俯瞰すること
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ときどきという言葉に近づきすぎてはいけないことがあることを知っている、本来は近づけない風景に対する畏敬の念が込められているのではないかと思う。
ただ、津田の「撮ることは世界を翻訳すること」という理念からもうかがえるのだが、翻訳不能な世界を写真に収めて、その世界に近づくこと、本やプリントという形になったときはじめてそれは少しだけ世界に近づいたことを意味しているのかもしれない。
俯瞰はしているが(それは空撮という方法論からだけでなく)それはその風景を客観視し、突き放した一風景としては捉えていない。
津田にとってその方法は写真を撮るという行為だけに限らない。
20頁近くにも及ぶ津田による詩は、撮影した風景を翻訳しようとする。
執拗に、掴みきれないそれらに近づこうとしているかのように。
そして、見ずに通過されてしまったすべての風景に名前を付けることも、同じように。
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「Yellow」
二つのYellowは一日中ただ風に吹かれている
そのことを知っているのは人間ではない 風景である
その一つは湖面に打ち立てられたフラッグ
もう一つは水蒸気の昇る噴出口に溜まった硫黄の色である
それは同時に距離でもある
人間には目に見える世界へ名前を与えてきた歴史がある
しかし見えない世界に付けられた名前は未だに少ない
だから見えない世界は音として呼ばれることは少ない
風を音だけでは見ないように
2003年2月14日
僕は湖の上を歩いていた
足元は石の様に固く凍りつき湖が光っていた
地図は無かった
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津田の作品を見るとき、その行為はひとりの思想家の文脈を読む、その生き様や思考の生みの苦しみを読むという行為を課せられているようで、私に純粋な作家の人生に対峙させてもらっているようなすごく楽しい時間を享受させてくれる。
接近したり、距離をとったり、コミュニケートするということはそういうことなのかもしれませんね。
以下、津田 直 公式HPです。
blogページの津田さんの言葉に本人の人柄が垣間見える気がします。(会ったこともないですが笑)
http://www.tsudanao.com/
出版元の赤々舎のHPです。
http://www.akaaka.com/publishing/books/tsuda-chikazuku.html
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